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【中小食品メーカーのマーケティング戦略】 第17回:いかにロングセラー商品を生み出すか

2024/10/21 [食品,コラム]

「中小食品メーカーのマーケティング戦略」がテーマの連載コラム。地域や中小企業のマーケティングを主な研究テーマとして各方面で活躍する、静岡県立大学教授の岩崎邦彦氏によるわかりやすい解説コラムです。

はじめに

食品の新商品の開発において、発売時に話題性や新しさなどで売れたとしても、その後、「売れなくなった」のでは意味がない。

「今」だけでなく、「来年」も「再来年」も「その後もずっと」食べ続けてもらえる食品づくりが、新商品開発のポイントだ。

とくに、人口や消費支出の伸びが期待できない今日、商品開発においては、いかにリピーターを確保し、ロングセラー化するかが重要になっている。

「ヒット商品」を生み出すことよりも、「ロングセラー商品」を生み出す方がはるかに困難である。
「買ってもらう」ことよりも、「買い続けてもらう」ことの方が難しい。

では、どうすれば、買い続けてもらえる商品を生み出すことができるのだろうか。
今回は、「いかに売れ続ける商品をつくるか」について考えてみよう。

ロングセラー商品と聞いて思い浮かぶのは?

ここで質問。あなたは下記の文の空欄にどのような商品を入れるだろうか。

ロングセラー商品と聞いて、思い浮かぶのは、(       )である。

全国1,000人の消費者に自由に商品名を入れてもらった。
結果は、表1に示したとおりである。

ベスト3は「ポッキー」、「チキンラーメン」、「カップヌードル」だ。

表1:ロングセラー商品といえば?

表1:ロングセラー商品といえば?
出所)「農業のマーケティング教科書:食と農のおいしいつなぎかた」

それぞれの発売は、1966年、1958年、1971年。
名実ともに日本を代表するロングセラー商品である。

では、なぜこれらの商品はロングセラーになったのだろうか。
これらの商品の共通性から、ロングセラー商品を生み出すためのポイントを考えてみよう。

ロングセラー商品を生み出すポイント

POINT.1 美味しすぎない(?)

全国の消費者に、「ポッキー」「チキンラーメン」「カップヌードル」のおいしさを評価してもらった。
結果は表2のとおりである。

いずれの商品も、「やや美味しい」という回答者が最も多い。
「とても美味しい」という回答は、いずれの商品も1割程度に過ぎない。

表2:ロングセラー商品は、どの程度おいしいのか

表2:ロングセラー商品は、どの程度おいしいのか
出所)「農業のマーケティング教科書:食と農のおいしいつなぎかた」

ポッキーも、チキンラーメンも、「おいしすぎる」の一歩手前だ。
だから、飽きない。もう一度食べたいと思うのである。

逆に、「究極のおいしさ」は、ロングセラーになりにくい。「究極」は、飽きがきやすいからだ。
「商い」は「飽きない」といわれるように、“いかに飽きない商品を生み出すのか”が、ロングセラー食品開発のポイントである。

たしかに、「究極のポッキー」「究極のチキンラーメン」「究極のカップヌードル」と聞いても、何か違和感がある。
究極の味を長期間にわたり食べ続けたい消費者は少ないはずだ。究極の味は、時たま出会うことができれば十分だろう。

ポッキーも、チキンラーメンも、カップヌードルも、とびぬけておいしいからロングセラーになった訳ではない。いずれも、新たなカテゴリーを切り拓いた「革新的な商品」である。独自の価値を創造し、進化し続けている。いずれの商品も、そのカテゴリーではナンバーワンだ。
ブランド名を聞いただけで、商品のイメージが浮かんでくる。飽きない味で、また食べたくなる。

そう、ロングセラー商品は、人々に好かれる商品だ。
「最高品質」というよりも、「最好品質」なのである。

POINT.2 「変わらないもの」と「変わるもの」のバランス

ロングセラー商品は、「変わらないもの」と「変わるもの」がバランスしている。

「変わらないもの」(=シンボル商品)がないと消費者を引きつけることはできない。
「変わるもの」がないと消費者は飽きてしまう。

テレビの長寿番組を考えてみると分かりやすいかもしれない。
たとえば、消費者に「長寿番組といえば?」と聞いてみると、圧倒的な一位は「徹子の部屋」だ(表3)。

黒柳徹子さんという「変わらない者=シンボル」がいるから視聴者を引きつける。
一方、毎回「変わる者=ゲスト」がいるから飽きさせない。だから、長寿なのである。

表3:長寿番組といえば?

表3:長寿番組といえば?
出所)「農業のマーケティング教科書:食と農のおいしいつなぎかた」

食品も同様である。たとえば、「ポッキー」は、チョコレート味が定番商品だ。
定番に加え、ココナッツ味、リンゴ味など、期間限定商品や地域限定商品を投入するなど、消費者を飽きさせない。

強い定番商品があれば、新しい商品を食べても、また定番に戻ってくる。
「カップヌードル」も「チキンラーメン」も、「変わらないもの」(定番商品)と「変わるもの」がバランスしている。

アイスのロングセラー商品「ガリガリ君」もそうである。
通年で販売されているのは「ソーダ味」のみ。定番の味を飽きさせないために、年間20種類もの味を投入している。

POINT.3 近視眼にならない

マーケティングにおいて、近視眼は禁物である。
今、売れるからといって、一気に生産量を増やしたり、流通チャネルを増やしたりするのは危険である。一時は売れるかもしれないが、飽きられる可能性が高い。ありがたみも薄れてしまう。

「ブーム」には要注意だ。急に伸びたものは、急に減速しやすい(図1)。
ブームは長続きしない。というより、長続きしないからブームなのである。

「ブーム」と呼ばれたら、喜ぶのではなく、逆に、気をつける必要があるということだ。

長く人々の支持を受けている強いブランドは、あえて供給を絞り、ブームを避けるケースも少なくない。
とくに、食の分野では食べ過ぎると消費者は飽きてしまう。一気に量を増やすのではなく、つねに磨き続けることがロングセラーになるポイントだろう。

マーケティングで大切なのは、「瞬発力」ではない。
「持続力」である。ロングセラー商品を生み出すために知恵を絞っていこう。

図1:ブームは長続きしない

図1:ブームは長続きしない
出所)「農業のマーケティング教科書:食と農のおいしいつなぎかた」

引用文献:
岩崎邦彦「農業のマーケティング教科書:食と農のおいしいつなぎかた」(日本経済新聞出版社)

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静岡県立大学 経営情報学部 教授
岩崎 邦彦 氏

静岡県立大学 経営情報学部 教授・学長補佐・地域経営研究センター長 博士(農業経済学)。専攻は、マーケティング。とくに、地域や中小企業に関するマーケティングを主な研究テーマとしている。これらの業績により、日本観光研究学会賞、日本地域学会賞、世界緑茶協会 学術研究大賞、財団法人商工総合研究所 中小企業研究奨励賞などを受賞。
著書に、「地域引力を高める 観光ブランドの教科書(日本観光研究学会観光著作賞)」「農業のマーケティング教科書:食と農のおいしいつなぎかた」「小さな会社を強くするブランドづくりの教科書」「引き算する勇気:会社を強くする逆転発想」(いずれも日本経済新聞出版社)などがある。
公職は、静岡県地域づくりアドバイザー、中小企業診断士国家試験委員、世界緑茶協会世界緑茶コンテスト審査委員、近江米振興協会オーガニック近江米ブランディングアドバイザーなど多数。

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