突然だが、ここに全く同じ価格、同じ品質の2つの牛肉のステーキがあるとしよう。ひとつには、「松阪牛」と書いてある。もうひとつには「静岡和牛」と書いてある。
あなたは、どちらを選ぶだろうか。繰り返すが、価格、品質は全く同じだ。
全国の消費者に聞いてみた。結果は表1に示したとおりである。
まったく同じ品質と価格にもかかわらず、「松阪牛」を選んだ人の割合は、「静岡和牛」の20倍だ。
これがブランドの力である。
まったく同じ品質であったとしても、選ばれるものと選ばれないものがある。選ばれるのは、「強いブランド」だ。
牛肉のステーキの例が示すように、選ばれるためには、品質を超えた「何か」が欠かせない。では、品質を超えた「何か」とは何か。
それが、「ブランド」だ。
「ブランドづくり」は、「モノづくり」を超える。ブランドとは、品質を超えた「とんがり」である(図2)。
では、どうすれば、強いブランドは生まれるのだろうか。以下では、「消費者調査」と「経営者調査」から導出された、強いブランドに共通する6つの特性を紹介しよう(図3)。ブランドづくりの方向性がみえてくるはずだ。
強いブランドに共通するもっとも重要な特性は、「イメージが明快である」ということだ。
ブランド名を聞いたときに、買い手の心の中にイメージが浮かぶから、選ばれるのである。名前を聞いても、イメージが浮かばなければ、選ばれることはない。
では、どうすれば、買い手の心に、明快な「ブランド・イメージ」をつくることができるのだろうか。
そのためには、売り手側が「ブランド・アイデンティティ」(ブランドの理想の姿)を明確化することが欠かせない。
「ブランド・アイデンティティ」と「ブランド・イメージ」は、原因と結果の関係だ。明快なブランド・イメージをつくるためには、明確なブランド・アイデンティティが前提になる。
強いブランドは、顧客の「理性」(頭)だけでなく、顧客の「感性」(心)にも訴求している(図4)。
顧客を引きつけるためには、ネーミング、パッケージ、デザイン、物語、接客などで、顧客の感性に訴えていくことが欠かせない。
「無難」「平凡」は、どれもブランドづくりのNGワードだ。
まだ世の中に「難」が多かった過去は、「無難」だから選ばれた。かつて、日本が貧しかった時代は、「平凡」が魅力だった。
だが、今は違う。今は、「無難=難有(なんあり)」の時代である。「平凡」という名の雑誌も、今は廃刊だ。強いブランドをつくりたければ、「脱・無難」、「脱・平凡」で、周りがやっていないことをやる必要がある。
価格を下げなければ顧客を生み出せないとすれば、それは「ブランド」ではなく、ただの「商品」だ。
消費者がブランドに求めているのは、「低い価格」ではなく、「高い価値」である。強いブランドをつくるためには、「いかに安く売るか」ではなく、「いかに、安く売らないか」に知恵を絞るべきだろう。
強いブランドには、「情報発生力」がある。「発信力」ではない。「発生力」だ。
具体的には、新聞、テレビ、雑誌などのメディア経由で、そのブランドがとり上げられやすいということである。
自分で「この商品はすばらしい」と広告するよりも、「この商品はすばらしい」とメディアが伝えてくれた方が、はるかに信頼性が高く、説得力も強い。
強いブランドには、「口コミ発生力」がある。「顧客が、顧客を生み出す」というメカニズムが作用しているということだ。
次の2つのメッセージのどちらにひかれるだろうか。
・「このスイーツ、とても美味しいの」(友人・知人の言葉)
・「当社のスイーツは、とても美味しいです」(売り手の言葉)
消費者に聞くと、圧倒的に多くの人が友人・知人の言葉にひかれると回答する。売り手の言葉よりも、知人・友人の口コミが勝るということだ。
今回は、強いブランドに共通する条件をみてきた。これらの条件に、ブランドづくりのヒントがあるはずだ。
・その商品は、イメージが明快だろうか
・消費者の感性に訴求しているだろうか
・独自性があるだろうか
・価格以外の魅力で消費者を引きつけているだろうか
・メディアに取り上げられることはあるだろうか
・消費者が口コミをしやすい特徴があるだろうか
強いブランドは、成り行き任せではできない。戦略性と創造性を持ってつくりあげるものである。
静岡県立大学 経営情報学部 教授 静岡県立大学 経営情報学部 教授・学長補佐・地域経営研究センター長 博士(農業経済学)。専攻は、マーケティング。とくに、地域や中小企業に関するマーケティングを主な研究テーマとしている。これらの業績により、日本観光研究学会賞、日本地域学会賞、世界緑茶協会 学術研究大賞、財団法人商工総合研究所 中小企業研究奨励賞などを受賞。 |