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【中小食品メーカーのマーケティング戦略】 第16回:「食」による地域のブランドづくり

2024/9/17 [食品,コラム]

「中小食品メーカーのマーケティング戦略」がテーマの連載コラム。地域や中小企業のマーケティングを主な研究テーマとして各方面で活躍する、静岡県立大学教授の岩崎邦彦氏によるわかりやすい解説コラムです。

はじめに

突然だが、あなたは下記の文章の空欄にどのような言葉を入れるだろうか。

観光地 + 「    」 = 満足

全国の消費者1000人に、思い浮かぶ言葉を自由に入れてもらった。

結果は、表1に示したとおりだ。もっとも多くあがった単語は、「美味しい」である。
以下、「食事」「グルメ」「料理・ご飯」など、食に関する単語がベスト10のうち5つもランクインしている。

観光や地域のブランドづくりにおいて、「食」がいかに大切なのかを示す結果だ。
食の振興と観光の振興には、密接な関係がある。今回は、食を活用した観光のブランドづくりについて検討しよう。

表1:観光地+「     」=満足

表1:観光地+「     」=満足
出所)「地域引力を生み出す観光ブランドの教科書」

ブランド力のある地域は「美味しい」

もう一度、前掲の表1をみてみよう。7位、8位、9位には、「京都」「北海道」「沖縄」がランクインしている。この3地域のブランド力の高さを示す結果だ。

では、「京都」「北海道」「沖縄」といったブランド力の高い地域を訪れた観光客は、それぞれの地域に対して、どのような印象を抱いたのだろうか。

これを確認するため、「京都」「北海道」「沖縄」での旅行を記述したブログを分析してみた。ブログは、消費者の気持ちを反映しているはずだ。

具体的には、それぞれの「地名」と「旅行」という言葉が含まれているブログを収集し、どのような単語が多く書かれているのかを分析した。消費者の気持ちをみるために、「形容詞」を抽出している。

表2:旅行ブログの頻出形容詞ランキング(京都、北海道、沖縄)

表2:旅行ブログの頻出形容詞ランキング(京都、北海道、沖縄)
出所)「地域引力を生み出す観光ブランドの教科書」

結果は、表2に示したとおりである。

驚くことに、これら3地域の旅のブログに出てくる上位3位の形容詞すべてに、「美味しい」という言葉が入っている。この結果から分かるのは、ブランド力の高い地域は、「美味しさ」を観光客に提供しているということである。

海外が認識する「日本の強み」は何か

海外からのインバウンド観光においても、「食」は武器になるのだろうか。海外の消費者に、日本の「強み」を聞いてみた。対象とした地域は、「アメリカ」「イギリス」「オーストラリア」「シンガポール」の4ヵ国である。

具体的には、下記の文章の空欄に、自由に単語を入れてもらった。

日本の強みは、「    」である。

表3:海外の消費者が考える「日本の強み」- 日本の強みは、〇〇である -

表3:海外の消費者が考える「日本の強み」- 日本の強みは、〇〇である -
出所)「地域引力を生み出す観光ブランドの教科書」

結果は、表3に示したとおりである。

日本の強みとして挙がってきた言葉の出現頻度ベスト3が共通している。「culture」「people」「food」だ。いずれの国も、「food」が含まれている。外国人観光客を引きつけるために、「食」がいかに重要なのかを示す結果だろう。

「食のまち」で、ブランド力が生まれるか

ここまで、観光における「食」の重要性をみてきた。
では、各地域が、「食のまち」といったプロモーションをすれば、地域のブランド力は強くなるのだろうか。

そのような単純な話ではない。
検索サイトを利用して、「食のまち」を検索したところ、なんと、4億6千万件もヒットした。

全国には「食のまち」を標榜する地域がいたるところにある。
まさに、「ジャングル」だ。「食のまち」を訴求したとしても、ほとんどの地域は、どこかに埋もれてしまうだろう。

単に「食のまち」と聞いたときに、心の中にイメージが浮かぶだろうか。
おそらく、浮かばない。イメージが浮かばなければ、選ばれない。
たとえば、次のようなプロモーションをしても、おそらくうまくいかないはずだ。

「この地域では、さまざまな味を楽しむことができます」
「生産される食材の種類が、たくさんあります」

「さまざまな味」「食材の種類がたくさん」と聞いても、具体的なイメージが浮かばないからだ。
消費者に「食」でイメージを浮かべてもらうためには、「この地域なら〇〇」といった、その地域“ならではの食”が不可欠である。

「ならではの食」との出会いの場を増やそう

「食」による観光地のブランドづくりで大切な条件をもう一つあげよう。
それは、「出会いの場」づくりである。

「地域で生産量が多い食材をブランド化しよう」という話を聞くことが多い。
だが、生産量が多いだけでは、ブランドづくりはうまくいかない。

地域の食を活用したブランドづくりは、食材の「生産量」の多さではなく、その地域ならではの食との「出会いの場」の多さが重要になる。

だが、日本の各地には、生産量が多いにも関わらず、その食材との「出会いの場」が少ないという課題を抱える地域が多い。

おわりに

食による地域のブランドづくりには、「モノづくり」を超えた「出会いの場づくり」が欠かせない。
こう考えると、食による地域のブランドづくりは、農業者や食品製造業だけではうまくいかないことがわかる。

ブランドづくりにおいては、一次産業(農業など)、二次産業(製造業)、三次産業(小売業、飲食業、宿泊業など)を含めた地域産業の連携が不可欠である。

食による地域のブランドは、生産(モノづくり)と飲食サービス(コトづくり)の“掛け算”によって生まれることを、あらためて認識する必要があるだろう。

地域資源を掛け算した食と地域のブランドづくりが各地で進むことを期待したい。

引用文献:
岩崎邦彦「地域引力を生み出す観光ブランドの教科書」(日本経済新聞出版社)

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静岡県立大学 経営情報学部 教授
岩崎 邦彦 氏

静岡県立大学 経営情報学部 教授・学長補佐・地域経営研究センター長 博士(農業経済学)。専攻は、マーケティング。とくに、地域や中小企業に関するマーケティングを主な研究テーマとしている。これらの業績により、日本観光研究学会賞、日本地域学会賞、世界緑茶協会 学術研究大賞、財団法人商工総合研究所 中小企業研究奨励賞などを受賞。
著書に、「地域引力を高める 観光ブランドの教科書(日本観光研究学会観光著作賞)」「農業のマーケティング教科書:食と農のおいしいつなぎかた」「小さな会社を強くするブランドづくりの教科書」「引き算する勇気:会社を強くする逆転発想」(いずれも日本経済新聞出版社)などがある。
公職は、静岡県地域づくりアドバイザー、中小企業診断士国家試験委員、世界緑茶協会世界緑茶コンテスト審査委員、近江米振興協会オーガニック近江米ブランディングアドバイザーなど多数。

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