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【内田洋行ITフェア2019in東京】 若手人材の確保の条件とは?介護現場の働き方改革 第一歩! 〜課題解決の実践〜

2019/12/23 [福祉,セミナーレポート]

介護や医療は政治・経済の社会的背景によって大きく影響を受けます。これからの人手不足時代に、介護現場や職員の働き方はどう変わっていくべきか?多様化する職員育成のポイントとは?今回は、若手人材の確保における課題に対し社会保障の第一人者である結城康博教授に、現場の実態と働き方改革の取り組みについて鋭い視点で講演していただきました。

目次

  • 働き方改革とは
  • 「介護人材不足倒産」に備え経営者は正念場を迎えている
  • 安心して働ける介護事業所をめざす「働き方改革」

内田洋行ITフェア2019 in 東京にて

淑徳大学 社会福祉学科 教授
結城 康博 氏

1969年生まれ。法政大学大学院修了(経済学博士、政治学博士)。ケアマネージャー他介護系の仕事に従事。また、社会保障審議会等の委員を務める。2007年より淑徳大学総合福祉学部准教授。2013年より現職。著書に、『在宅介護――「自分で選ぶ」視点から』『孤独死のリアル』など多数。

働き方改革とは

(1)働き方改革の方向性

少子高齢化を前に、生産性の向上や労働力の確保のために、政府と産業界が取り組んでいるのが「働き方改革」です。その方向性は次のようなものとなっています。

  • 非正規雇用の待遇差改善
  • 長時間労働の是正
  • 柔軟な働き方ができる環境づくり
  • ダイバーシティの推進
  • 賃金引き上げと労働生産性向上
  • 再就職支援と人材育成
  • ハラスメント防止対策

今、介護業界が「人が来ない」「離職率が高い」と悩んでいるのは、事業所の多くがこうした働き方改革からほど遠い、いわゆる「ブラック企業」となっているからではないでしょうか。介護事業所の経営者や人事担当者は今一度、事業所がブラック企業になっていないか、再確認してみましょう。

(2)働き方改革関連法で義務付けられたこと

働き方改革の一環として、2019年4月より働き方改革関連法が施行され、次のようなことが決まりました。

  • 1人1年あたり5日間の年次有給休暇の取得を義務化
  • 残業時間の上限を規制(原則として月45時間、年360時間が上限)
  • 働く人の健康管理を徹底(管理職、裁量労働制適用者も対象)
  • 「フレックスタイム制」により働きやすくするための制度を拡充
  • 働く人の健康を守る措置を義務化(罰則つき)

高齢者介護の現場でサービスの質を確保するには、優秀な人材の頭数が必要です。そして優秀な人材を集めるには、一定数の人数が必要となります。働き方改革の法制化を機に、人が集まる事業所づくりを目指しましょう。

「介護人材不足倒産」に備え経営者は正念場を迎えている

(1)今後増加が見込まれる社会福祉法人の倒産

介護事業の経営は、いかに「介護人材」を確保、定着できるかが勝負になります。人材なくしてサービスの提供が不可能だからです。今後、高齢化が進んで介護サービスの需要は増しますが、人材不足が続けばこれに応えられず、むしろ「人手不足倒産」が増えることが予想されます。

実際、訪問介護事業所の2019年上半期「老人福祉・介護事業」の倒産は55件となり、介護保険法が施行された2000年以降では、年上半期で最多に。年間ベースでは最多の2017年(111件)を上回る可能性が生じています。そしてこの最大の原因は、介護人材不足により訪問介護事業所(ヘルパー事業所)を中心に、担い手が確保できず事業展開できないためなのです。

とりわけこれから15年間、団塊世代が全て85歳になる2035年に向けては、多くの要介護者が生じ高齢者介護のニーズはさらに高まることが予想されます。それに伴い、介護人材不足による「倒産」や、介護を受けられない「介護難民」が増えることでしょう。2035年以降は、人手不足により、地域包括ケアシステムそのものが崩壊する可能性もあります。それをいかに「働き方改革」によって回避できるかが経営の分かれ道ともいえます。

(2)事業所タイプ別の人材確保の課題

介護事業者は、以下の4類型に分類されます。それぞれによく見られる、人材確保に関する問題点を挙げていきましょう。

① 社会福祉法人・医療法人といった大規模型

特養、老健、介護医療院などの、昔ながらの介護事業者です。給与や福利厚生などは恵まれている事業所が多いのですが、採用活動で人材確保に苦労しています。また、働き始めてみると、仕事内容が若者にとって「ルーチン的」ととらえられがちで、「自分でなくてもいいのでは」との思いから辞めてしまうケースがよく見られます。

② 在宅・有料系・サ高住などを中心とした事業展開(業界大手株式会社)

多様な職場があり「保守的」な介護イメージはありません。採用活動も上手で、個人の特性を尊重した配属をしています。ただし、全体的に賞与はそう多くはなく、@の社会福祉法人・医療法人に多くみられる「年間賞与4.0カ月前後以上」といった事業者は少ない傾向にあります。

③ ベンチャー企業ともいえる小規模事業者

「福祉」の介護というよりも、むしろ「ビジネス」様相の強い介護事業者。若い経営者が多く、経営者のオリジナルの介護理念をもとに事業展開をしています。「福祉」的側面を強くアピールする介護に抵抗がある学生が関心を示します。ただし、経営・待遇面で不安感を抱く学生もいるでしょう。

④ 地域密着傾向の小規模事業所(NPO、小規模社福、有限会社など)

小規模多機能、グループホーム、開業医による付属介護事業者、在宅系など。経営者のカリスマ的な介護観があり、地域密着、介護哲学などが重んじられるイメージ。学生も、給与、休みというよりも、「利用者との接し方、情、自己決定、地域とのつながり」といった視点で関心を抱きます。しかし、こちらも経営・待遇面で不安のある学生がいることでしょう。

就職活動を行っている学生からみると、②〜④は魅力的に映ります。しかし、いざ働き始めてみると特に③と④の介護事業者は待遇面で厳しく、「働き方改革」の側面からみると疑問符がつくところが多い傾向にあります。

(3)他業種よりも厳しい求人状況

現在、景気の状況がさほどよくないにもかかわらず、少子化により求人倍率はバブル期よりも高く、過去最高の売り手市場となっています。他業界も人材確保に血眼になっていることを、介護事業所の経営・人事担当の方は肝に銘じておく必要があります。

人材不足にあえぐ産業界全体の中でも、介護事業所の求人状況は、厳しい状況に立たされています。需要の増加に対して、介護職を目指す人が減っていて、養成施設の定員・入学者、介護福祉士試験の受験者・合格者、いずれも大幅な減少傾向にあります。

そのため、介護分野の有効求人倍率が2005年には1.47倍(全産業では0.94倍)だったのが、2018年には3.95倍(全産業では1.46倍)と急上昇。東京都内ではさらに求人倍率が高く、介護サービス業での一般常用では6.77倍、パート常用では10.16倍となっています。

セミナー資料:東京都内の有効求人倍率(一部)

いますぐに「働き方改革」を行って若い人材を確保しておかないと、介護需要がピークを向迎える時期に中核を担う人材がいない、という状況になりかねません。

安心して働ける介護事業所をめざす「働き方改革」

(1)介護人材が不足する理由とは

介護人材が不足する要因としては、次の図のような要因が挙げられます。

セミナー資料:介護人材不足の要因分析

このうち、①〜④に関しては、介護保険制度など外部的な要因もあり、個々の事業所で対応するのは難しい面もあるでしょう。

ただし、⑤および⑥は現場で変えていくことが可能です。中でもまず取り組むべきは⑤現場の指導力・養成力、さらには経営サイドのマネジメント全般を見直すべきです。働き方改革関連法の施行を機に、まずは労務法規を遵守するところからスタートしましょう。

(2)安心して学生を送り出せる介護事業所の条件

私が担当する学部には介護業界を志す学生がいます。安心して学生を送り出せる介護事業所の条件は、とにもかくにも「ブラック企業でないこと」につきます。その主な条件は次の6つです。

1.サービス残業がないこと

2.研修でもきちんと残業代を支払うこと

3.公休、年休(年間5日間)が取得できること

4.若い職員も希望休・有給休暇を取得しやすい職場雰囲気であること

5.職員配置基準に余裕があること。ギリギリの人数シフトでは、公休さえ取得できない

6.管理職によるパワハラがないこと

これを細かい要素に落とし込んだチェック表が以下の通りです。

安心して学生を送り出せる介護事業所の条件(チェック項目)

① ブラック企業か否か?

② 毎年、新入社員の同期がいる(研修があるか否か)か?

③ 1年目職員のチューター(トレーナ制度)があるか?

④ しっかり職員へ認知症・介護技術研修をしているか?

⑤ 利用者(要介護者)の人権に関する研修を実施しているか(虐待防止研修など)?

⑥ しっかり介護事業所の理念・哲学を職員に示し浸透させているか?

⑦ 定期的に管理職及び職員にパワハラ・セクハラ研修を行っているか?

⑧ 中間管理職の指導者(養成者)研修を実施しているか?

⑨ 組織で職員へ介護福祉士などの資格取得のための研修支援策を実施しているか?

⑩ 決まった賞与が年間2回必ずあるか?

⑪ 決まった資格手当・定期昇給はあるか?

⑫ 希望休・有給休暇を若い職員を優先に取らせる職場雰囲気か?

⑬ 将来のステップアップの道筋を見せているか?

⑭ 職員のメンタルケアの仕組みがあるか?

⑮ 職員と施設長(所長)or管理職と定期的に面談があるか?

⑯ 施設長(所長)と中間管理職が定期的に連携しているか?

⑰ 人材確保(補充)を派遣会社・紹介会社に依存していないか?

⑱ 年間介護離職率の現状はどうか(定着率)?

⑲ 新人職員に対して返済義務のある奨学金の助成システム(手当)があるか?

⑳ 組織的として定期的に管理職がリクルート活動を行っているか?

* 結城康博オリジナルで作成

チェック項目が多く戸惑われるかもしれませんが、この多くは他業界では当たり前に実現できています。まずは「サービス残業を当たり前にしない」ところから始めましょう。労基法を遵守したシフト表を組み、残業代はきちんと出す。たとえば研修の準備や参加を「自己研鑽のため」としてサービス残業扱いにしていないか、あらためて見直してください。

休日は有給休暇を年間5日は取れるようにします。しかも、若い人から優先的に取らせるくらいの意識を持ちましょう。

ハラスメント対策も重要です。介護業界はハラスメントが多い傾向にあり、とある調査では退職理由のトップが「人間関係」となっています。管理職や中間管理職自らが研修を受け、従業員にも研修を実施するなどして意識改革をする必要があります。ハラスメント対策は「働き方改革」における重要項目にもなっています。

また、チェックリストに「人材確保を派遣会社や紹介会社に依存していないか」とあることを不思議に思われるかもしれません。依存が問題である理由のひとつとして、派遣社員は残業をせず、責任を負わされないため、派遣社員が多くなることで、例えばしわ寄せを受けて残業をせざるを得ない正規職員が意欲を喪失してしまう可能性が挙げられます。また、派遣会社の手数料は高く、それが経営にも悪影響を及ぼします。こうした紹介・派遣会社に依存するよりも、働き方改革を進めて「ホワイト」な職場にすることをお勧めします。定着率は高まり、さらに口コミによる人材確保が可能となります。

(3)若手人材定着のためにできること

「平成29年度 介護労働実態調査の結果」(介護労働安定センター)によると、介護離職者のうち、1年未満で離職した者が38.8%、「1年以上3年未満の者」が26.4%で両者を合計すると65.2%でした。つまり、離職者の6割以上が3年未満で辞めているのです。

辞めた理由として挙げられているのが「職場の人間関係」「法人・事業所の理念」など。賃金の問題だけでなく、人間関係や理念が合わないといった精神的な側面が上位となっていることに注意が必要です。

とりわけ今の若い世代は、「石の上にも6カ月」といいますか、自分に合わない企業であれば、さっと見切りをつけることが普通のこととなっています。経営者や中間管理職である40代以降の世代は、そうした若者を「我慢がきかない」と非難しがちですが、今の30歳未満の若い世代と、30代後半以上の世代とでは、育った家庭・学校・社会的価値観が異なります。そうした背景や社会で、終身雇用の解体や少子化が進行している現状を理解し、若手人材の採用・育成に関する認識を改める必要があるでしょう。

現在の30歳未満の若い世代は、「きつく言われる」「怒られる」といった、養成・指導では続かない傾向にあります。「こうすればいいよ!」「あなたの良さはここだから、いいものを伸ばしていこう!」といった、褒める養成・指導するようにしましょう。

若手に避けられる職場は、「相談しても対応してもらえない」「残業手当をつけない」「管理職がえこひいきをする」「管理職が感情的で言うことが変わる」「指導内容が人によって変わる」といった面があります。人材確保のために、働き方改革を推進すると同時に、管理職・中間管理職の指導方法研修は必須となっていくことでしょう。

【まとめ】介護職員の確保・定着のために現場ができること

  • 介護現場の施設長、事務長、中間管理職は、自分が若い時代の記憶はリセットする
  • リクルート活動を積極的に。学生などへの効果的なプレゼン技術を身につける
  • 1年目職員の「希望休」「有給休暇」の取得を勧める
  • 若手人材の養成・指導方法について40歳以上の職員への研修を強化する
  • できるだけ同期(若い年齢)は、同じ施設へ配置する。定着率が高まる
  • 1年目職員に対して1年は研修生の感覚で、職場への定着を目指して養成する
  • 適宜、施設長、介護長との面談をする
  • 中間管理職は褒める人材育成の方法をインプットする
  • 定期的にパワハラ・セクハラ研修を実施する

まずは管理職・中間管理職が意識を変え、働き方改革を推進し、若者にとって魅力的な職場に変えていきましょう。

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