今年の春のゴールデンウイーク前、食品業界の物流には激震が走りました。1つの象徴的な出来事は、レンタルパレットが足りなくなったこと。加工食品業界で使われるレンタルパレットの多くを供給する日本レンタルパレット社(JPR)が緊急記者会見を開き、パレット供給が間に合わなくなっている現状を発表。新規供給はストップ、従来顧客に対しても3割の供給枚数削減を要請しているというのです。
なぜか。今年のゴールデンウイークは過去最長の10連休となったため、連休前に必要な商品を調達しておこうと考えた小売・卸のメーカーへの発注が激増したことが背景にあります。テレビニュースでも、食品卸の物流センターに通路まで積み増した商品在庫が満ち溢れている様子が放映されていました。
在庫はパレットに積まれているのですが、よく見ると、ワンアイテムがひと山(商品ケースが5〜8段積みくらいになる)になってパレット1枚に積まれているのではなく、2〜3段くらいと少量の薄い層になって、それに1枚ずつパレットが使われている。多品種少量化の結果です。従来のワンパレット分のひと山がパレット3枚とかに区切られ、パレット貨物が薄く何層にも重なっている様子は、かつて「ミルフィーユ出荷」と呼ばれていました。
だから、同じ量でもパレット使用枚数は3倍くらいになる。しかも、連休まで在庫されるので、通常ならレンタル会社に返送されるパレットが帰ってこない。その結果、需要量を供給できなくなってしまったというわけです。
「ホワイト物流」推進運動のご案内と参加のお願い(国土交通省・経済産業省・農林水産省)
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同じく10連休を前に、ある大手食品メーカーが顧客の流通業界に対し、「従来の翌日配送を、翌々日配送にさせてほしい」と要請しました。食品業界ではメーカーが小売・卸の発注に対し、翌日配送で応えるのが長年の商慣行。ところが連休前・連休中の需要集中に対して、もはやドライバーや作業者が足りず、そんなに早く運べない、と顧客の理解を求めたのです。
以前にヤマト運輸が踏み切った総量規制と同じ背景で、物流クライシスはますます顕在化しているわけです。今回、こうした要請を実行したのは一部大手メーカーだけでしたが、ある識者は「来年は多くのメーカーに拡大しなくては、食品物流が回せなくなる」と断言しています。
トラック+ドライバーが足りなくなる背景には、もう一つの要因が重なっています。「ホワイト物流国民運動」をご存知でしょうか。この春、国土交通省、経済産業省、農林水産省が3省連名で主要企業トップに対し、「物流業務がブラックのままでは日本の物流が止まってしまう、ホワイト化に荷主企業も協力を」と呼びかけたのです。
それ以前にブラックだと批判を浴びたヤマト運輸はいち早く「働き方改革」推進で残業・長時間労働の軽減を進めてきましたが、物流業界の自身の努力だけでは足りない。物流側に負担を押し付ける荷主企業こそが自覚し、ホワイト化を進めなければ、本当に物流がストップしてしまう。この危機感を国民全体で共有し、改善しよう、というのがこの運動の趣旨なのです。
いや、他人事と思ってはいけません。一消費者の立場で私もあなたも、便利な通販ショッピングなら翌日・当日配送も当たり前、という高度な物流サービスに慣れ切ってはいないか。
「1週間後でもいいよ」と物流サービスレベルの低下を受け入れる諦念、寛容、民度の成熟。それが実は、過剰品質の日本の物流を適正化し、無駄なコストの低減、生産性向上を実現する、要だったりするかもしれません。
月刊マテリアルフロー 編集部 MH機器やロボット等、自動化設備の現場導入事例から、製・配・販連携、荷主企業の物流戦略に至るまで、激変するサプライチェーンの最新動向が、分かる! |