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【物流コラム】 物流ロボットか洗練のマテハンか

2018/5/7 [物流,コラム]

長年、物流ロボットやマテハンの導入に関する取材記事を書いてきた「月刊マテリアルフロー」編集部による「物流ロボットか洗練のマテハンか」と題したコラム。

目次

  • 自動化・機械化しか選択肢がない
  • 棚搬送ロボット
  • 自動倉庫方式
  • ピッキングロボット

自動化・機械化しか選択肢がない

このところ、急激に、まさにあっという間に、物流現場での自動化・省力化技術にもの凄くスポットが当たるようになってしまいました。このテーマを最も得意とする専門情報誌「月刊マテリアルフロー」を作っている筆者自身が、戸惑うほどです。
これは多くの要因が重なりあった結果と思います。

・EC市場の拡大、堅調な景気動向からの物流センター作業の需要拡大
・ICT/IoT/AI/ロボットなど先端技術の革新的進化
・労働人口減少⇒人手不足
・働き方改革推進による労働環境改善ニーズの高まり…

といったところでしょうか。物流不動産ブームで各地に大型物流施設が次々に建設されるのはいいのですが、そこで働く現場作業者を募集しても、思うように集まらない。「ヤマト・ショック」もあって宅配や長距離トラックのドライバー不足は社会的問題として認知されましたが、物流センターでも事情は同じ。高速道路IC近辺などでは時給千数百円以上がもはや当然、「人の奪い合い」状態になっています。

先日もある港湾物流会社の役員が、「もう自動化・機械化しか、選択肢がないんです」と話していました。これは都市部の多くの物流現場で共通の事情ではないかと思います。

では、どんな自動化・機械化ないし省力化を進めればいいのか。

その選択肢はけっこう多いので、ここでは最近流行りの、というか極めて自動化ニーズの高いボトルネックである、ピースピッキング関連作業の自動化を目的とした大潮流に焦点を絞りましょう。「棚搬送ロボット方式」「自動倉庫方式」「ピッキングロボット方式」の3つを取り上げてみたいと思います。

棚搬送ロボット

これが日本でも注目されるようになったきっかけは、アマゾンです。同社は2012年、ピッキング支援ロボットメーカーのKIVA SYSTEMSを7億7,500万ドルで会社ごと買収。それが現在のAMAZON ROBOTICSですが、筆者は早くも2010年の米NA展示会でKIVAの展示に注目、同年即座にマテリアルフロー誌にレポートしたのですが、実はこの時は、余り反響がありませんでした。

ところが2016年末にアマゾンの日本法人もついにこれを導入し大手マスコミに公開したことで、一気に注目が高まりました。そして同社の張り巡らした特許の網をかいくぐり、棚をピッキングステーションに次々に自動搬送してくるという原理は同じで別のシステムが、世界各地で相次ぎ登場しました。

その1つがわが国製造業の雄・日立の「ラックル」。間接資材の大手EC企業、モノタロウが昨年、笠間のセンターに154台を一気に導入し話題になりました。続いて昨年秋にはニトリ/ホームロジスティクスが、一昨年大きな話題になったロボット自動倉庫「オートストア」(写真1、最近他社にも次々に導入されています、マテリアルフロー2018年2月号を参照)に続き、インド発祥のGreuOrangeが開発した「バトラー」を関西の通販センターに導入しています(写真2)。他にもいくつか事例が続いていますね。

  • 写真1 ニトリ/ホームロジスティクス川崎通販発送センターに導入されたオートストア(月刊マテリアルフロー2016年5月号より)

  • 写真2 同・西日本通販発送センターに導入されたバトラー(月刊マテリアルフロー2018年1月号より)

この棚搬送ロボット方式は、「ピッカーを歩かせない・探させない」ためのもの。筆者はドイツと米国でアマゾンの従来型物流現場に行ってみて、なぜ彼らが会社ごと買い占めるほどこのロボットを欲しかったのか、よく分かりました。なにせ広い。ドイツでは約4000パレットを水平展開できるスペースがワンユニットで、それが4つある由。ピッカーは1日15kmくらい普通に歩くので、センター長は「うちに来ればスポーツジムに通う必要はないよ、あっはは」と笑っていました。

だが作業者がそれを喜んでいるとは思えない。会社としてもこれではいかん、と思ったからこそ、まだ導入していない各地現場にも順次、導入しているわけです。

このロボットによれば、発注のかかった商品を入れた棚をロボットが次々にピッキングステーションに届けてくれるので、作業者はステーション内を少し行き来するだけでよくなる。たいていはランプ表示方式が組み合わされているので探す必要もなく、少なくとも何kmも歩かずにすみ、作業環境は向上します。ただしこのラックルの例(写真3,4)では、棚がけっこう高く、作業者にはステップの昇降が頻繁に必要になる点が少し気になりました。

それでもこの方式により、モノタロウやニトリでは、「カートなどを作業者が押して棚の間を歩いて探し回り、ハンディ端末でバーコード検品する」従来の作業にくらべ、生産性は3-4倍にもなるとのことでした。

  • 写真3 モノタロウが導入した日立のラックル(月刊マテリアルフロー2017年6月号より)

  • 写真4 ピッキングステーション

自動倉庫方式

これに対して、従来技術である自動倉庫をうまく使って、同様に作業者の歩行作業を不要にする方式も、捨てたものではありません。筆者はモノタロウの直後に、大手医薬品卸業・メディセオの埼玉ALCでこの最先端事例を取材しました。そこではパレット自動倉庫・ケース自動倉庫、そして高い入出荷能力を誇るシャトル自動倉庫を組み合わせ、発注のかかった商品が入ったコンテナだけをスピーディに出庫。作業者は指示された数量をピックし、すぐ右手の先のソーターに投入します(写真5,6)。

先のロボット方式との大きな違いは、@ロボットが複数アイテムを入れた棚ごと持ってくるのに対し、こちらはコンテナだけなのでアイテム間違いが起こりにくく作業が速い、Aロボットでは棚の上部空間が空いてしまうのに対し、こちらは天井部までスペースを使い切れる、B逆に巨大な固定設備となるので、変化への対応性は低い(棚搬送ロボットは、必要で棚をしまい込んでスペースを活用したり、移設も容易)……など。

正直、一長一短があり、導入企業が何を重視するかで判断は異なります。後で見るアスクルも、神奈川のセンターではスペース効率を重視し、シャトル自動倉庫を導入しています。

写真5,6 メディセオのシャトル自動倉庫とピッキングステーション。自動倉庫が次々に出庫するコンテナから必要数をピックし、作業者右手のソーターに投入(月刊マテリアルフロー2017年7月号より)

ピッキングロボット

最後に、近未来技術としていよいよ注目を集めるピースピッキングロボットです。筆者のように長年この分野に携わる者にとって、「ピースピッキングの自動化」はほとんど「夢」と認識されてきました。生産ラインでは数10年前からロボットの導入は当たり前で、日本は中国に追い抜かれるまで、世界一のロボット大国であり続けてきました。しかしそれは、ミリ単位で決まった位置から、決まったものを、決まった位置に移動する、というのが基本動作であり、すべての動作は人間がプログラミングし、長時間をかけた微調整を経て、自動化を実現していたもの。機械は命令された動きしか、絶対にしないのです(今のところ)。

ところが物流現場、とくにピースピッキングのニーズが極めて高いECの物流現場では、数千、数万アイテムの商品が、ばらばらの状態で入っているコンテナから、正しくそれをピックして、正しく・安全に出荷コンテナに移載する、という、まるで次元の違った作業が必要になります。「1,000年続けても2度と同じ条件はない」といわれるこの動作指示を、プログラミングする、などという選択肢はありません。ロボットが自分で見て、自分の脳で最適な動作経路を判断し、ロボットに指示を出し、寸分の違いもなくその通りにロボットが動いて、初めて可能になる作業です。

だからこれまで物流現場用途では、数種類の決まったものが数種類の決まった状態で届く、パレット貨物のデパレタイズ(パレットに積まれた荷物を降ろす作業)に使われていたくらい。小さな千差万別のピース商品を自動ピックすることは、とてもできなかったのです。

しかし日進月歩の最先端技術は、ついにこの壁を破りつつあります。アスクルが一昨年からコラボを開始しているロボット技術ベンチャー、MUJINとの共同開発を続けています。最初の2台のテスト機は残念ながら、埼玉の火事で損傷してしまいましたが、横浜で1台のテスト稼働が続いています(写真7)。

写真7 アスクル-MUJINのピースピッキングロボット(月刊マテリアルフロー2017年12月号より)

この技術のキモは2つ。1つは、上に述べた「ロボットが自分の眼で見て、脳で考えて動作指示を行う」こと。これを可能にしたのがMUJINのロボットコントローラーで、カメラセンサがとらえた画像から、瞬時に最適な動作計画を立案して(モーション・プランニング)ロボットに指示を出すというものです。とにかく「瞬時」ですから、すごい技術であることは間違いありません。

もう1つは、ロボットの手先、ないし指の部分のメカニズム。まだ、人の腕・手・指ほどにフレキシブルかつ高能力のメカニズムはありません。そこで多くの企業はその技術開発に余念がなく、アスクルの場合、写真のようなバキューム方式を軸として、より多くの商品に対応でき、しかも商品を決して傷付けず、落としもせずにハンドリングできる方策を求めて実験を続けています。なおアスクルの場合、ロボットの手元まで商品コンテナを運び出すのには、シャトル自動倉庫とコンベヤを使っています。

ロボットのハンド部は複数種類を用意し、対象品によって付け替えるという手もありますね。バキュームだけでは足りないので、「指」方式の技術開発に、多くのメーカーが取り組んでいるようです。

さらにもう1つ期待されているのが、「AI物流ロボット」の開発です。以上の動作を何千万回も失敗させる中で、AIが人間の子供のようにディープに学習し、いつか、何でも適正にハンドリングできるようになる可能性は、確かにある。グーグル他もどんどん実験を続けていますが、今現在に限れば、まだまだ途上というところ。ただし今後には大いに期待したいと思います。

以上、ピッキング支援自動化技術の3つの潮流を取り上げ、最新事例と合わせて概観してみました。ロボットもすごい。しかし年々洗練されてきた、自動倉庫などのマテハン技術も、すごい。

メリット・デメリットを検討することは当然として、現在の状況からして、該当する物流現場にゆっくり構えている時間はないかも知れません。「人手がなくて物流が止まってしまう」事態だけは、回避したいものです。

月刊マテリアルフロー7月号

月刊マテリアルフロー 編集部

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