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【物流コラム】 食品ロジスティクスの近未来

2018/12/25 [物流,コラム]

長年、物流ロボットやマテハンの導入に関する取材記事を書いてきた「月刊マテリアルフロー」編集部による「食品ロジスティクスの近未来」と題したコラム。

目次

  • EC/IoT時代の食品物流 〜中国のネットスーパー事例から
  • 「コネクト」で日本の逆襲なるか 〜コンビニ電子タグ1000億枚宣言が一歩前進

EC/IoT時代の食品物流 〜中国のネットスーパー事例から

本コラムでは過去に、食品物流センターの先進システム導入事例や、前回は物流・ロジスティクスにおけるシェアリング・共同化の話題を巡り、ビール業界と加工食品業界でし烈な競争を繰り広げるライバル企業同士が、物流では協働を開始するというチャレンジ事例を取り上げました。

その上でこれからのトレンドについて何をご紹介すべきか。考えた結果、今回はEC/IoT時代における近未来の食品物流に注目することにしました。まずは中国の先端トレンドから……。

未来の食品流通・物流の1つの姿を、中国の実店舗事例に発見した時、筆者は正直、驚愕しました。筆者らが毎月編集発行している物流・サプライチェーンの専門誌、月刊「マテリアルフロー」では年来、中国情報の紹介にも力を入れてきました。近年、中国企業は製配販の荷主と物流事業者も、機器やシステムのベンダー・メーカーも含めて急速に発展を続けていることは知っていたものの、展示会で急増する中国製品のレベルはまだまだ、とタカをくくっていた部分がありました。

ところが昨年秋、知人が上海を訪れ、ネットスーパーや無人コンビニの現場レポートを寄稿してくれました。そこにあったのは、日本なら「やろうと思えばそりゃ、そのくらいできるけど」と思いながら、現実には誰一人やろうとしなかった、思い切った自動化・無人化システム。「中国の先端企業は(限られた分野ではあるが)あっという間に、日本の現実を抜き去ろうとしている」という厳然たる事実を認めざるを得ませんでした。とにかく現場を見てみましょう(以下は月刊マテリアルフロー2017年12月号、郭ouco 中原久根人社長、「アマゾン、日本のコンビニの先を行く中国の先端流通・物流システム」より要約しつつ解説します)。

それはアリババ系のネットスーパー「盒马」(「カバ」と読むらしい)。同社の上海店舗は完全にオムニチャネルが前提で、リアルな食品スーパーの実店舗がそのまま、ネットスーパーの倉庫・配送センターとして機能している。スマホアプリで注文すると、全ての商品は店舗の商品棚から担当者がピッキングし、市内3km以内なら「30分以内」に配送されます。

店舗の値札は全て電子ペーパーで制御され、タイムセールになると、ECアプリ上の価格と店頭価格が一瞬にして連携(写真1)。WMSとPOS上の在庫データがECサイトと連動しているわけです。

写真1 アプリ価格と連動する電子ペーパーの価格表示

品ぞろえは日本の加工食品も含め大変な量。中でも驚かれたのは海鮮類で、店内の生け簀にシャコ、カニ、牡蠣、ヒラメなどが元気に泳いでいて(写真2)、来店者はどれかを選んでその場で調理してもらい、店内エリアで食べられるほか、ネット注文なら生きたまま配送されるようです。朝採れ野菜も、肉類もその日うちに締めた新鮮な肉がパックされて並んでいる(写真3)。

  • 写真2 店内の生け簀

  • 写真3 パックされた生鮮野菜

店舗内は買い物客より人数が多い、ブルーのシャツを着たピッキング作業員が走り回りながら、専用端末を使って商品を陳列棚からピッキング。バッグにまとめて、あちこちに設けられている垂直コンベヤからリフトアップし、天井に張り巡らされたチェーンコンベヤでバックヤードに運ばれて行きます(写真4,5)。そこから軽車両やバイクでスピード配送されるのでしょうが、その送料は無料だそうです。

日本の工場や物流センターではごく当たり前の端末やコンベヤですが、これを小売店舗に導入して30分内配送を実現しようとした企業は1社もありませんでした。

写真4,5 ピッキングした商品を詰めたバッグはコンベヤでバックヤードに自動搬送

最近でこそ中国の急速なキャッシュレス社会化は日本でも知られるようになりましたが、同店のレジはもちろん電子決済で、キャッシュは扱わないのが前提です。だから現金の保管も回収も必要ない。

このニュースはその後かなり浸透し、関係者の間では「上海詣で」がブームになっているとも聞きます。「新鮮な食品を早く・安く」という人類共通の消費者ニーズを背景に、中国は一歩先に、ここまで突っ走っている。アマゾンの無人店舗も動き出して日本の産業界と政府が戦慄するなかで、中国の旺盛なチャレンジ精神は、謙虚に見習うべきものと思います。

「コネクト」で日本の逆襲なるか 〜コンビニ電子タグ1000億枚宣言が一歩前進

では日本はどうなのか。昨年テーマに取り上げた経済産業省(以下、経産省)とコンビニ各社による「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」(2017年4月)が完遂されたなら、一発逆転の可能性もあります(本項は月刊「マテリアルフロー」2018年3月号記事より抜粋要約)。経産省が昨年からドイツのインダストリー4.0構想の向こうを張って、「コネクテッド・インダストリーズ」を掲げているのはご存知の通り。タグ1000億枚宣言もRFIDと情報システムでサプライチェーンをコネクトするわけで、同コンセプト実現の具体例の1つと言えましょう。

この取り組みは、コンビニ等の食品雑貨小売業界で従業員の人手不足が深刻化し、このままでは店舗オペレーションが滞り、地域社会にも影響を与える危惧があることから、オペ自動化・省力化の切り札としてRFID技術の全面活用にチャレンジ。RFタグをコンビニで扱う全商品にアイテムタギングし、消費・賞味期限チェックを含む検品やレジ清算を自動化してしまおうという意欲的な計画です。昨年の店頭実験に続き、今年の2月には一歩進んだ複数の実証実験が行われました。10日間にわたり、都内のコンビニエンスストア3店舗と物流センターを舞台に、食品・日用品メーカー、卸、物流事業者、コンビニ、システムベンダーが共同で、RFIDを用いたサプライチェーンにおける在庫情報等の共有化・可視化システムの実証実験を実施したもの。

図表1 今年度の実証実験の全体イメージ

先に検品や清算という店舗オペレーションを効率化の対象に挙げましたが、実は今年の実験の焦点はもう1つ上の階層にありました。リーダーで取得したRFタグの情報を食品・日用品メーカー、卸、物流センター、コンビニ等、製配販等のサプライチェーン全体で共有することにより、在庫管理等の効率化や食品ロスの削減につなぐことを目指したのです。

そのため今回は、サプライチェーン上流で商品に貼付されたRFタグを入出荷時に読み取り、そのデータが実験用に構築した情報共有システム(EPCISベース)を通して、在庫や購買情報等をサプライチェーンで確認、共有できるかを検証しました(図表1)。

そのうちファミリーマートは、霞が関の経済産業省店でメディア向けのデモを開催。RFタグを瞬時に読み込み、高速決済が体験できるRFID専用セルフレジを設置しタグ付き商品が専用レジで決済できる形としました。このデモには世耕経済産業大臣も参加し、実際に商品を購入し決済して見せました(写真6,7)。一般メディアは店舗作業の自動化ばかりに注目していましたが、この実験のミソは前述の見えない部分、つまり店舗の販売データも情報共有システムに連携され、サプライチェーン上で見える化されることにあったのを、見逃してはいけません。

  • 写真6 [世耕大臣によるデモ] 専用棚からタグつき商品を選び、

  • 写真7 専用レジに買い物カゴを置くと瞬時に金額表示

これに対し、ローソンとミニストップの実験店舗では、RFID対応レジの代わりに、購入商品の電子タグをレジの下部に設置されたリーダーで読み込み、購買結果を情報共有システムに連携させる形にしました。「特定の商品が、いつ、どこに、何個あるのかといったデータを取得し、これらのデータをサプライチェーンで共有できる環境の整備を行う」ことが目的です。物流センターでもタグ発行・貼付、端末での読み取り、配送、店舗納品の作業までの実験が行われています(写真8)。

写真8 物流センターで貼付けされたタグの読み取り実験

こうしてコンビニ商品へのRFタグ全面導入が実現すれば、それを輸送し・保管し・届ける物流事業者もまた、RFIDシステムに対応し情報連携することによって、サプライチェーン全体でムダな生産、ムダな在庫、ムダな輸配送を最小化することも可能なはず。大きな期待がかかります。

ただし昨年も指摘した通り、その実現には前提として、1.RFタグ単価が1円以下になること、2.サプライチェーン上流のメーカーがソースタギングを行うこと、という高い壁をクリアする必要があります。

一部の声のように、それがまったく不可能かというと、筆者はそうとは限らないと思っています。現在の科学技術進化のスピードからすれば、ICチップの極小化・極低価格化は想定内との声もある。さらにタギングコストをメーカーだけに押し付けるのではなく、サプライチェーンに係りメリットを獲得する各層が応分に受益者負担とする枠組みだって、できないことはない。コンビニ業界に続き、ドラッグチェーン業界も取り組みへの参加を表明しました。

今や想像以上のスピードで、世の中は変化し続けています。その大波の中で、今回紹介したような近未来像を視野に、どう勝ち抜くか。それは政府や大手リーダー企業任せにする受け身の姿勢ではなく、私たち1人ひとりが自覚的にどう戦うかにかかっているのではないでしょうか。

月刊マテリアルフロー7月号

月刊マテリアルフロー 編集部

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