いわゆる物流危機=クライシスの真っただ中、トラックドライバーだけでなく、物流センターなどの現場でも人手が集まらず、関係各社は苦労し抜いています。
生産年齢人口が縮小を続ける中での人手不足に輪をかけて、長時間労働、付帯作業等が厳しく規制される「ホワイト物流」の流れ、もう1つ重ねてEC物流需要の拡大という「三重苦」が物流現場に覆いかぶさっています。
「トラックで運べない」のに加えて「倉庫で入出庫・荷揃え作業ができない」ことになれば、文字通り日本の物流がストップしてしまう。ではどうすればいいのか?
国家戦略・企業戦略のマクロ視点から、戦術・現場のミクロレベルまで、そこには様々な取り組みの可能性があるのですが、ここでは現場にフォーカス。「デジタル化(DX;デジタルトランスフォーメーション)」の文脈で語られる「自動化・省力化」、それも現場を止めないためのロボティクスの可能性に的を絞ります。前編として①GTP/歩かない・探さない・考えない、後編として②AMR/自立走行ロボット、③自動ピッキングロボットを解説していきましょう。
物流用の自動化・ロボティクス分野では近年、①GTP(Goods To Person)、②AMR(Autonomous Mobile Robot)という分類が一般化しています。前半はその分類に従って説明していきましょう。
まずGTPは、マテハン設備やロボットが出庫・ピッキングすべきモノを人の手元に届ける自動化・省力化システムのこと。だから作業者は歩かず・探さず・考えないでよい。従来のカートやリフトで棚の間を作業者が歩き回ってピッキングする作業では、付加価値を生まない「歩行」が作業時間の大きな比率を占めていました。これを最小化することで、生産性を数倍に高めることができるようです。
GTPは別にロボットによらずとも可能です。従来型のケース自動倉庫・シャトル自動倉庫がピッキングステーションに発注のかかったアイテムのコンテナを出庫し、人がピックしてバーコードを読み、ソーターなどに投入する仕組みも、立派なGTPです。
そして自動倉庫タイプでありながら、シャトルに代えて自動走行ロボットを天井部に走らせる斬新なソリューションで、世界的にフィーバー状態になっているのが、AutoStore社が供給するオートストア。ラック構造をはるかに軽便化し、一般の自動倉庫の3倍前後のスペース効率が出せるもので、月刊マテリアルフローではトラスコ中山(写真1)ほか、多数の導入事例をレポートしています。
写真1:トラスコ中山・プラネット北関東のオートストア(月刊マテリアルフロー2019年4月号より引用)
これに対し、ラックをまったく組まずに多数の棚に商品を保管し、「棚を手元に届ける」役割をロボットが担う「棚搬送ロボット」タイプが最近、国内でも増加しています。
発端になったのが、ご存じアマゾンロボティクス。商品は平面サイズが平パレット程度、高さ2.5m前後の棚に複数アイテムを積み合わせ、ロボットが入出庫ステーションまで運んできた棚から作業者が入出庫するものです。これに倣ったロボットが今、アマゾンの特許をかいくぐりながら、日米のみならずインド、中国ほか世界各地で雨後の筍のように続出していますね。国内の大規模事例として、筆者は日立製作所のRacrew(ラックル)154台を導入した間接資材のBtoB EC企業、モノタロウの笠間DCを取材して紹介しました(写真2)。
この方式、前述の通り最近大変脚光を浴びているのですが、使い方は簡単ではありません。まずは広大な平面スペースがないと、効率を出しにくい。だから欧米や中国で早々に導入が進み、日本でも先のモノタロウは地代の安い茨城県笠間市で国内最大級の平面積を持つ1階建て物流センターを作り、導入しました。
写真2:モノタロウが導入した日立のラックル(月刊マテリアルフロー2017年6月号より引用)
もう1点が、刻々と変化する売れ行きデータを反映し、どの商品をどの棚に積み合わせ、その棚をどこに置くのが最適なのか。それに応じたロボットの走行経路の最適化はどう行うか……極めて複雑なアルゴリズムに裏打ちされ、さらにはAIを活用して学習を重ね、使うほどに生産性を上げられるような、ソフトウェアが不可欠であること。実は先ほどのオートストアも同様で、この辺になると、もはや運ぶだけのハードの勝負ではなく、物流ロボティクスの戦場は、今やソフトウェアに舞台を移していると言ってよいでしょう。
(後編へ続く)
月刊マテリアルフロー 編集部 MH機器やロボット等、自動化設備の現場導入事例から、製・配・販連携、荷主企業の物流戦略に至るまで、激変するサプライチェーンの最新動向が、分かる! |