私は新工場の設計相談を受けたときに、必ず工場責任者に「新工場は何年使用する予定ですか」と質問します。
20年なのか、30年なのか、それとも50年なのか。使用予定年数によって、設計の考え方が根本的に変わってくるからです。
「30年後の売上目標はいくらですか」私は、必ず質問します。
多くの責任者は、来年、再来年の目標は答えられますが、30年後の具体的な数値目標を持っている方は少ないのが現状です。
しかし、新工場を建設するのであれば、30年後の生産能力、従業員数、一人一時間当たりの生産性まで明確にしておくべきです。特に、平均時給をいくらで考えているかが大切になります。
建設後に「手狭になったから増築を」では、効率的な工場運営は困難になります。
将来の拡張を見込んだ設計こそが、長期的な競争力を支えるのです。
HACCP、ISO22000など、食品安全の基準は年々厳しくなっています。
現在の基準だけで設計していては、5年後、10年後に大規模な改修が必要になる可能性があります。
新工場では、将来の規制強化を見据えた設計が不可欠です。排水処理能力の余裕、清浄度区分の明確化、トレーサビリティシステムの導入スペースなど、「今は不要でも将来必要になる」要素を織り込んでおくことが重要です。
私が工場を訪問すると、「人手不足で困っている」という声を頻繁に聞きます。
30年後の労働人口減少を考えれば、自動化は避けて通れません。
新工場の設計段階で、ロボット導入のためのスペース確保、電源容量の余裕、通信インフラの整備を行うべきです。「後からでも」という考えでは、結果的に高コストな改修を強いられることになります。
IoTセンサーによる品質管理、AI活用の生産計画など、デジタル技術の進歩も設計に反映させる必要があります。
カーボンニュートラル、脱炭素社会への対応は、もはや選択肢ではありません。
新工場では、太陽光発電設備の設置スペース、蓄電池の設置場所、省エネルギー設備の導入を最初から計画に組み込むことが必要です。
また、将来の電力料金上昇、環境税導入を考慮すれば、初期投資が多少高額になっても、長期的にはコスト削減につながる設計を選択すべきです。
優秀な人材を確保し続けるためには、働きやすい環境づくりが欠かせません。
休憩室、更衣室、食堂の充実はもちろん、自然光の取り入れ、適切な空調設計、騒音対策など、従業員の健康と働きがいを考慮した設計が重要です。
あなたは、新工場の30年後の姿を明確に描けていますか。
・新工場を設計するときに注意すること 〜設計段階で将来を見据えること〜
・将来の計画を立てているか 〜責任者は常に将来を考えること〜
・食品工場の工場長の仕事とは 〜常に改善を求める姿勢が大切〜
・生産設備のデーターのバックアップ 〜停電してもデーターが残るか〜
・原料から最終商品への紐がつながるか 〜原材料、包装資材に問題があったら〜
・データの流出防止 〜パソコンなどの持ち出しを許可しているか〜
・ICチップカードの利用について 〜入場していい作業場かどうか〜
・食堂もキャッシュレスに。食品工場内のICカードの利用のすすめ
食品安全教育研究所 代表 1958年1月北海道生まれ。帯広畜産大学を卒業後、農場から食卓までの品質管理を実践中。これまでに経験した品質管理業務は、養鶏場、食肉処理場、ハムソーセージ工場、餃子・シュウマイ工場、コンビニエンスストア向け総菜工場、玉子加工品工場、配送流通センター、スーパーマーケット厨房衛生管理など多数。毎年100箇所以上の食品工場点検、教育を行っている。 |
食品業の経営者・マネージャーの皆さまへ